
「娘と一緒にいる私の顔が、優しい顔でよかった……。」
撮影した写真を見ながらつぶやいた、医療的ケア児のママからの言葉です。
全国で5つのフォトスタジオを展開する、クッポグラフィー。医療的ケアが必要な⽅や特別なサポートを必要とする⽅、そのご家族にも、安⼼して撮影の時間を楽しんでいただきたい。そんな思いで、2025年秋より「ユニバーサル撮影」を開始しました。
撮影プランを実現へと動かしたのは、一人のフォトグラファーの強い思いでした。クッポグラフィーのフォトグラファー、天草 晴菜さんにお話を伺いました。

| クッポグラフィー チーフフォトグラファー 天草 晴菜さん(愛称:こまち) 日本大学芸術学部 写真学科卒業後、2016年、クッポグラフィー初の新卒として入社。ウェディングフォトからファミリーフォトまで、多岐にわたる撮影に携わるフォトグラファー。また、撮影の一日を心に残る時間となるよう、スタッフに向けて「撮影体験の価値」を上げるための研修や接客指導を行っている。 |
── クッポグラフィーでは、今回新たに「ユニバーサル撮影」が始まったそうですが、反響はいかがですか?
こまちさん:とても良い反応をいただいてます。ユニバーサル撮影といっても、これまでの撮影と違いはないのですが、改めて一つのプランとして世に出すことで、医療的ケア児や特別なサポートを必要とされる方、そしてそのご家族が安心して予約ができるのではないかと考えています。
── 実際には何組くらい撮影をされたのでしょうか?
こまちさん:プラン開始から半年が経ちましたが(取材当時)、30組以上の撮影をしました。
須田:既に30組も!Instagramで「ユニバーサル撮影」がスタートしたことをお知らせする投稿も拝見しましたが、「ずっと撮影を我慢していたから嬉しい」といった声や、「待ってました!」というコメントが来ていましたね。
こまちさん:嬉しかったですね。医療的ケア児とそのご家族は、普段から様々な場面で我慢をしたり諦めたりすることが多いと聞いています。家族で写真撮影をしたいなと思っても、一歩が踏み出せずに諦めていたという方が、プランができたことで問い合わせをしやすくなるのであれば良いなと思っています。

通常プランとの違いは「予約するハードル」を下げたこと
── 通常の撮影内容との違いを教えてください。
こまちさん:通常の撮影と内容は変わらないですし、ある意味、どなたでも利用できます。 ただ、撮影までの不安をできるだけ取り除いてあげられるような工夫をたくさんしています。例えば、まだ撮影することを決めかねているお客さまでも事前の打ち合わせができるようにしました。
須田:予約をする前に相談できるのは心強いですね。
こまちさん:今回のプランでは、WEBサイトに質問を送れるフォームをご用意したので、気軽に疑問や不安点などを送ることができると思います。その後、ご希望があれば、オンラインでもご来店いただく形でも、直接お話できる機会を設けるようにしています。
撮影に対して不安なことがあったり、疑問点があって予約をするハードルを上げてしまっているのであれば、それを無くしたいと思っているので。気軽に相談をしていただけるように情報発信も増やしているので、多くの人たちに届いてほしいですね。

須田:これまで、どのような相談事がありましたか?
こまちさん:「着物が着られるか不安」という声や、「メイクもしてもらえるんですか?」 といったご相談事もありましたが、一番は、私たちがどんな人なのかを知って安心したいという方が打ち合わせを希望されることが多いように思います。打ち合わせのときは、お互いの話をしながら不安を解消していくような時間になりますね。
須田:「当日誰がそばにいてくれるのか」というのは、特に医療的ケア児や障害児のご家族はお出かけをする際に重要視しているように思います。まず、自分たちのことを歓迎してくれる人たちなのかという点が気になるようで。旅行プランを立てるとき、施設そのもの以上に、担当者の人柄を重視している方は多いと思います。
こまちさん:私もそう感じています。打ち合わせのときは、私たちフォトグラファーのほかに、ヘアメイクアーティストも同席するようにしていて。可能な限り、担当予定の人が関わるようにしています。



須田:こまちさん以外のフォトグラファーも撮影してくださるのですか?
こまちさん:実はこの度、全スタッフが「ユニバーサルマナー検定」を受講しました。
須田:え!?全スタッフですか?すごい。
こまちさん:全てのスタッフが3級を取得したので、ユニバーサル撮影に対してみんなが前向きに取り組める状態にしています。撮影に携わったメンバーを交えて、毎月事例の共有や、どうすることがベストなのかを振り返るミーティングも行っています。
須田:気合を感じますね。
こまちさん:同じ障害だったとしても、お子さま一人ひとり全く状況が異なります。様々な事例をシェアすることで、自分が直接体験していなくても知見が広がるので。ミーティングの時間は、撮影エピソードを聞いてみんなで泣きながら「良い時間だったね」と話して、温かい気持ちになっています。
社会への疑問が原動力に フォトグラファー人生を変える出会い
── プランをリリースするまでの道のりは大変でしたか?
こまちさん:やりたいと思ってから実現するまで、5年ほどかかりました。
須田:5年ですか。長い道のりでしたね。
こまちさん:そうですね。最初は私一人で動いていたので、何から始めたらよいのか、どんな内容にしたら喜んでもらえるのかがわからなくて。今までご来店くださった医療的ケア児のお母さまや、障害があるお子さまが通う施設の方などに時間を作っていただいてヒアリングをしていきました。20人ほどに、1時間ずつ質問をしていって。手探りの状態からのスタートでした。
須田: すごいですね。大変だったでしょう。
こまちさん:わからないことだらけだったので。ちゃんと当事者のことを知りたいなと思ったんです。一人ひとり、症状も環境もさまざまで。私たちもその子に合わせた撮影時間をつくらなければならないと、ヒアリングをする中でわかってきました。

須田:素晴らしいですね。そこまでこまちさんを突き動かしたものは何だったんですか?
こまちさん:あるファミリーとの出会いで、医療的ケア児とそのご家族が置かれている社会に初めて触れる経験をしたんです。
9年前、4p-症候群という病気と闘っている3歳の女の子、希帆乃(きほの)ちゃんのお母さまから、「うちの子でも撮影してもらえるのでしょうか」とご連絡をもらいました。
「娘は染色体異常をもって生まれてきて色々な合併症があり、3歳になった現在座位ができず、身体も小さく、まだまだ赤ちゃんに間違われがちです。ですので、いわゆる一般的な3歳の七五三とは違うこともあり、撮影が可能かどうかご検討頂けますでしょうか」と問い合わせがあって。もちろん撮影できますし、逆にどうしてそんなふうに聞いてくるんだろうと最初は思ったんです。
実際に予約された後に、体調不良で入院されることがあり、3回ほどキャンセルが続いて。ようやくお会いできたときは、まずこの撮影を実現できたことに拍手だなという気持ちになりました。今日という日が来なかった可能性もあると思った時、1回の撮影の大切さに気づいて。それって障害があってもなくても、皆さんそうなんですよね。この気づきのおかげで、フォトグラファーとしての仕事の向き合い方も変わっていきました。
── どんなふうに変わっていったのですか?
こまちさん:以前は、ご家族に楽しい時間を届けたいとか、良い写真を届けたいという思いで撮影に臨んでいたのですが、希帆乃ちゃんファミリーと出会って、「この瞬間は今しか撮れない」という思いで一つひとつの撮影と向き合うようになりました。

こまちさん:45分の撮影時間の使い方にも変化が出ました。撮影時間をご家族にとって特別な時間にするためには「会話」が必要だと気づいて。撮影のときの思い出は、そのときの写真と結びついて心によみがえることがあるんです。例えば、娘さんとお父さまのツーショットを撮る時、「パパのこと好き?」 と質問して「好き」と言った瞬間の表情を写真で届けられたとき、お父さまにとっては、「自分のことを好きって言ってくれた時の娘の写真」という形で残ります。会話を大切にした撮影時間にすることで、この先見返したくなるような、心の支えになるような写真を届けることができると考えるようになったんです。
こうした“写真の力”に気づいたのは、希帆乃ちゃんファミリーを撮影していた時のことでした。「希帆乃ちゃんをみんなで囲んでください」と言った時に、ご家族の皆さんが希帆乃ちゃんに話しかけながら囲んでいる姿を見たんです。「ほんと、希帆乃はかわいいね」と伝えながら。

こまちさん:ただポーズをとるのではなく、希帆乃ちゃんへの愛情が溢れる空気が流れていました。その写真を見るたびに、私自身も皆さんが希帆乃ちゃんのことを大切だと伝えていた時間を思い出すんですよね。撮影時間は「会話」次第で特別な時間にすることができて、その時間はこの先何度でも写真で思い出すことができる。私のフォトグラファー人生を変える、大切なことを教えてもらいました。
── 今の活動の原点にもなる出会いですね。
こまちさん:本当に。医療的ケア児をはじめとするどんな方々でも撮影を諦めない世の中にしていきたいという思いが、私の活動の軸となっています。
特に医療的ケア児のお子さまは、いつ何が起こるかわからない、リスクが高い状況にあります。そういったお子さまやご家族にこそ、今の姿を写真で届けるべきなのに、撮影へのハードルを上げてしまっている社会に疑問を持っています。世の中どうなってるの?おかしいなって。このおかしな社会をどうにかしたいという思いが、私の原動力になっています。



自分の家族を肯定してくれた 1枚の写真
須田:こまちさん自身のSNSを拝見していると、自分やご家族にまつわる写真の投稿が多いですね。そこには、何か思いがあったりするのでしょうか。
こまちさん:実は私、自分のことや家族のことを好きになれなかった時期があって。でも、クッポグラフィーで撮ってもらった1枚の写真のおかげで、その思いが大きく変わりました。今ここでこうして活動ができているのも、その写真のおかげなんです。
── どんな写真ですか?
こまちさん:大学生のときに撮ってもらった家族写真です。母子家庭で育った後に、母が再婚して新しい家族ができてから数年が経った頃でした。父親が異なる3歳の妹がいたのですが、一緒に暮らしていてもほとんど関わらずにいました。
ちょうど写真学科で学んでいて、クッポグラフィーに興味を持っていたこともあり、妹の七五三の撮影を家族に提案して予約しました。そのときは、家族を利用してクッポグラフィーの撮影を見てみたいという思いしかありませんでした。
当日スタジオに行くと、社長の久保さんの一番弟子と言われていた、憧れのフォトグラファーが担当してくれて。「やった!あの人だ!」と、とても喜びましたが、好きではない家族と一緒に写りたくなくて、スタジオの片隅でただ見ていました。
最後、フォトグラファーが、「一緒に写りませんか」と声をかけてくれて。きっと、フォトグラファーは、私が家族なのか親戚なのか、何者かわからない状況で言ってくれたんですよね。憧れの方が言ってくれるなら、撮られる体験もしてみようかなと、1枚だけ一緒に写ったんです。

こまちさん:後日、出来上がった写真が送られてきて、その1枚の写真を見て思ったんです。私の家族、意外と悪くないかもって。妹は普通に可愛いと思えましたし、何よりお母さんが嬉しそうでした。今思えば、大切な3人が仲良くできない中での暮らしは、つらかったかと思います。

こまちさん:写真を通して、自分たち家族を肯定してもらえたような思いになりました。
フォトグラファーは、この家族良いなと思わなかったら、シャッターを切らないと思うんです。撮ってくれたという事実によって、私たち家族を受け入れてくれる人がいると捉えることができて。写真には肯定する力があることを、初めて知りました。
それからは、私自身も、妹を肯定してあげたいという思いで、妹の写真を撮り始めました。

こまちさん:どんな家族の形であっても、写真を通して、皆さんのこんなところが素敵だよと伝えていきたいんですよね。写真はその人の魅力を届ける力があると思います。私自身がそれを体感しているので、きっと皆さんにも感じてもらえるはずです。
一歩、勇気を出して撮影してほしい
須田:撮影の一日を通して、自分たち家族を改めて知る機会になる。子どもたちをちゃんと愛せているのか、自分は心から笑えているんだろうか。そういった心の内までをも写し出すような、再確認できる貴重な体験ですね。それはもしかしたら、遊園地や水族館などの、エンターテイメントを超える価値があるのかもしれない…。
こまちさん:そう思ってもらえたら嬉しいですね。やっぱり写真を撮るというのはすごくハードルが高いことだと思いますし、迷惑をかけるんじゃないかと余計な心配をさせてしまうイベントだと思います。
でも、写真は撮らないと残らないんです。だから、写真を諦めるということはしないでほしい。医療的ケア児や障害児をとりまく社会がそうさせてしまっているところもあるので、私たちはそんな思いをさせないフォトスタジオとして存在し続けていきたい。

こまちさん:スマホでの撮影も、写真で残せるから良いと思います。でも、誰かに撮ってもらって自分たちの家族を客観的に見てみることで、明日への活力につながったり、これからを生きていく上での心の支えになるのではないかと思っていて。忙しい毎日であったり、大変なことが多ければ多いほど、自分たちがどんな姿だったのか、子どもを見て笑えているのか、どうしてもわからなくなってしまうときもあるかと思います。でも、クッポグラフィーに来てもらえたら、自分の家族を好きになれる時間や、家族で過ごした最高の思い出を私たちが届けます。
ぜひ一歩、勇気を出して。お子さまの写真を撮ってみませんか?
クッポグラフィーのユニバーサル撮影について、詳しくはこちら
取材・文:石垣藍子
報道機関での番組制作を経て、現在はフリーライターとして活動中。親子に関わる社会問題を取材し、文章で届けている。
