医療的ケア児との旅行でご家族が悩まれることの一つに、「旅先での食事」があります。
嚥下障害があり、胃ろうを使用しているお子さんの場合、食事(注入)の時間を見計らったり、注入場所を探したり、旅先で食事の加工が可能か確認したり……と考えること、調べることはたくさん。
せっかくの機会なので、旅行先の郷土料理や地元ならではの食材を使った食事も楽しみたいところですが、嚥下障害に対応したとろみ食(ミキサー食)などに対応してくださるところはまだまだ少ないのが現状です。
そんな中、沖縄県那覇市の「ホテルパームロイヤルNAHA 国際通り」さんで、ミキサー食の提供・ミキサーの貸し出しをはじめたとの情報を耳にしましたので、今回取材をしてきました。

沖縄県産の食材を使ったバーベキューがミキサー食でも楽しめる
沖縄県那覇市の観光名所「国際通り」の真ん中に位置する「ホテルパームロイヤルNAHA 国際通り」。

エントランスのすぐそばにある屋外プールでは、バーベキューも楽しむことができます。

このプールサイドバー&ダイニングで、今回ミキサー食の対応のバーベキューが提供されました。
──今回取り組まれた嚥下食の内容を教えてください。
「沖縄県のブランド豚の”あぐー豚”や沖縄県産の食材を使ったバーベキューを、摂食嚥下障害のあるお子さんとそのご家族に楽しんでいただきました。」

「お子さんたちに“これから焼いていくよ〜”と食材をお見せして、親御さんたちに焼いていただいた食材をハンディブレンダーにかけました。とろみ剤での調整は親御さんにしていただいて。他にも、あらかじめ用意しておいたかぼちゃのポタージュなども楽しんでいただきました」


沖縄を「あらゆる人が楽しめるダイバーシティな島」に
──とても素敵な取り組みですが、どういった経緯でこのようなプロジェクトが立ち上がったのでしょうか。
「元々弊社では『ダイバーシティアイランド沖縄』というコンセプトでホテルの運営を行なってきました。LGBTQへの対応に取り組んでいたり、館内のバリアフリー対応にも取り組んできました。沖縄は台風で雨風や停電などの被害を受けやすいところです。2018年には、障害者・外国人など災害時に弱者になりやすい方と共に夜間に災害時避難訓練を実施したのですが、その時の取り組みに関しては第14回「国土交通省バリアフリー化推進功労者大臣表彰」を受賞しました。その際に、沖縄観光コンベンションビューローの方に車椅子トラベラーの三代達也さんをご紹介いただき、交流することがありました」


「旅先の食事を子どもと一緒に楽しめない」という声を受けて
「三代さんとお話をする中で、摂食嚥下障害の方は外食に行きづらい、なかなか旅行にも行きづらいんだというお話を聞いたんです。嚥下障害のあるお子さんを育てる親御さんは、自分たちは旅先で地元のものを食べて楽しんでいるけど、子どもはいつもと同じ栄養剤で…。なかなか嚥下食(ミキサー食)に対応してくれるところもなく、旅行や外食に行っても自分たちだけ楽しんでいて引け目を感じるということで、旅行や外食を控えていらっしゃるという話も聞きました」

「何かできることある?と聞いて、三代さんから摂食嚥下障害の子どもたちの取り組みを進めている加藤さくらさんをご紹介いただいて、この企画が始まりました」
嚥下食対応は宿泊施設が取り組みやすいアクションのひとつ
──嚥下食対応は初めてだったのですか?
「私も最初は全然知らなかったんです、嚥下障害って。事前に食材にミキサーにかける練習もしたんですが、うちにあるのは業務用で、食材が少ないとうまくミキサーがかけられなかったんですね。でも親御さんたちと連絡を取り合いながら、どうしたらいいかを教えてもらって、おすすめの家庭用のミキサーを早速電器屋に買いに行ったりしました」
──親御さんに色々聞きながら進めていかれたのですね。嚥下食対応に取り組まれてどのように感じられましたか?
「当社でも食物アレルギー対応に取り組んでいますが、アレルギー対応は専門的な知識も必要ですし、命に関わるリスク対応も必要です。その点では、嚥下食対応はアレルギー対応よりも取り組みやすいと感じましたね」

同じものを食べて「おいしいね」と言い合える喜びはお子さんにも伝わっている
印象的だったのはお子さんたちの反応だった、と高倉さん。
「今回は、BBQを楽しんだ後、皆さん一泊されたのですが、4組のご家族のうち、お一家族が早めにホテルを出ねばならなかったんです。そのお子さんが皆さんとお別れする時、みんなと別れるのが寂しかったようで、泣いていたんですね。周りの音から親御さんが楽しんでいる様子がわかっていたんだと思います。それを見たら私も感動して泣きそうになってしまいました」
県産食材ペースト状に 旅先で食事を楽しめなかった子どもたちをサポート (沖縄テレビ)2024/12/3
同じものを食べておいしいねと言い合える、そのささやかな経験も、摂食嚥下障害のご家族はなかなかできていないのが現状です。
同じ食事を楽しんで、共に旅をした人たちと共通の思い出ができる。その喜びがお子さんにも伝わったのかなというエピソードですね。
予約時のリクエストでミキサーの貸し出しもOK
──現在は嚥下食はどのように対応されていますか?
「ご予約時にご要望があれば、対応するようにしています。朝食バイキングの会場でも使っていただけるようにミキサーの貸し出しもしていますし、お席もミキサーをかけていただいても大丈夫な場所にご案内させていただきます」

今後は自社のホテルだけではなく、沖縄県の観光業界全体で食のバリアフリーを進め、「ダイバーシティアイランド沖縄」を推進していきたい、と高倉さん。
「当事者の親御さんに講演をしていただくシンポジウムをしたりして、沖縄県は誰が来ても歓迎するところだよというのを広めていきたいですね」

行きたい旅行先としても常に上位にランクインする沖縄県。このような取り組みがあらゆる宿泊施設で広がっていくと、旅の選択肢が広がっていきますね。
高倉さん、インタビューのお時間をいただきありがとうございました!
施設情報
宿名 | ホテルパームロイヤルNAHA 国際通り |
住所 | 〒900-0013 沖縄県那覇市牧志3-9-10 |
電話 | 098-865-5551 |
FAX | 098-866-7711 |
WEBサイト | https://palmroyal.co.jp/ |
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