昨今、金沢では着物を着てまちなかを散策をする観光体験が大人気。
こうした観光体験の火付け役でもあり、北陸新幹線開業以前の2010年から着物レンタルの事業を立ち上げ、”着物でまちなか散策”という文化を作ってきた株式会社心結の代表・越田晴香さんにお話を伺いました。
金沢駅から歩いて5分の距離に店舗を構える「着物レンタルshop 心結(ここゆい)」。
「医療的ケア児のモニター宿泊会」では、オプションの着物レンタルの受け入れをしてくださったお店です。
「着物レンタルはまちづくりだと思う」
ー インタビューにお伺いする前に読んだ記事で「着物レンタルはまちづくりだと思う」と越田さんが仰っているのを拝見しました。印象的な言葉でしたが、そう思われるようになったきっかけには、どんなことがあったのでしょうか?
越田さん:学生時代、よく旅行で各地をめぐっていました。どこの街に行っても、美味しい食べ物やきれいな景色ってあるんですけど、そういう記憶って忘れてしまったりするんですよね。
反対に、現地の人と話したとか、何か体験したとか、道に迷った時に現地のおばあちゃんが助けてくれたとか、そういうコミュニケーションが記憶に残っているんです。
越田さん:着物を着て歩くことで、おばあちゃんが「着物キレイやね」と話しかけてくれたり、「どこから来たの?」とか「バス分かる?」とまちの人が観光客の人に話しかけるきっかけになって、触れ合いが生まれるんです。
洋服を着ているときよりも、着物を着ているときのほうが「写真撮りましょうか?」という声もかけやすくなります。金沢は優しい人が多いので、話しかけたい人もいっぱいいるんです。
観光に来られる方も、話しかけられるのが嬉しいんですよね。
そうやって着物を通してコミュニケーションが生まれて、金沢のファンになってくれるといいな、着物がそういうコミュニケーションの媒介になるといいなと思っています。
「例外」を取りこぼさないようにしようーースタッフと共有している仕事の姿勢
レンタルと着付けを通して着物文化を伝え、金沢での忘れられない体験を提供している「心結」には、国内・海外を問わず様々なゲストが訪れています。
ー 心結で働くスタッフたちに共通している仕事への姿勢には、どういったものがあるのでしょうか?
越田さん:着物を着て歩くというのは、なかなかできる経験ではなくなってきています。でも、金沢旅行をきっかけに、着物を着ることで日本人なんだなと感じたり、ほっとする時間を提供したいなと思ってお店を開きました。その着物を着たときの気持ちを共有したいという、着物が好きな人が働いてくれています。
越田さん:あと、例外を取りこぼさないにしよう、というのは共有していますね。様々なお客様がいらっしゃいますが、なるべくお客様のリクエストに応えるようにしています。
例えば、心結では妊娠中であっても同意書(※)を頂ければ着付けに対応しています。女性だけど男性ものの着物が着たい、男性だけど女性ものの着物が着たい、というリクエストにも対応します。
※安定期であること、医師とパートナーの了承を得ていることも必要
ー 柔軟な対応をされているんですね。
越田さん:他のお店が断っていることをあえてしようっていうところはありますね。「他のお店だと断られるんです」って悲しそうにしていらっしゃるのを見ると、何とかしてあげたいと思うんです。
うちの店舗は1階で受付とヘアセットをして、2階で着物選びと着付け、3階のスタジオで写真撮影、という流れが一般的なのですが、例えば車椅子の方がいらっしゃった場合はすべて1階で完結するように対応します。ヘアメイクのブースをカーテンで仕切って、個別対応する、という感じですね。車椅子の方を着付けする研修もしたりしています。
ー どうしてそこまでの対応ができるのでしょうか?
越田さん:金沢に旅行に行こうと決めて、着物体験もしようと思っていたのに、着物体験の申し込みで断ってしまうことで、そういう体験を諦めてしまったり、”金沢に行かないでおこう”となってしまうかもしれないですよね。
最初に電話で問い合わせをした時に断られてしまうことで、気持ちも落ち込んでしまうし、金沢のイメージも悪くなってしまうかもしれない。そうならないよう、私たちは「大丈夫ですよ、精一杯やらせてもらいます」というスタンスでいたいと思っています。
医療的ケア児の着付けを通して学んだこと
ー モニター宿泊会で心結さんのオプションを紹介したところ、3家庭のお子さんが着付けを体験したいと申し込んでくれました。実際の着付けの時はどんな感じでしたか?
越田さん:着物は色々と融通が利くので、何とか着せてあげることができて良かったです。両家のおじいちゃん・おばあちゃんがいらっしゃったご家庭では、着付けを手伝ってくださったりもしました。着物を着る本人もがんばってくれましたよ。
ー 着付けで工夫されたところはどんなところでしょうか?
越田さん:着物の着付けはお腹の部分にたくさんの紐を結ぶのですが、機械をつけている子については、紐が機械に絡まないようにしたり、お腹が苦しくないようにゴム紐に変えてみたりしました。車椅子に乗ったままの子は背中に帯があると痛いので、結び目を前にしたりもしています。
ー 今回プロジェクトに参加してくださったのにはどんな理由があるのでしょうか?
越田さん:ケア児の子たちが着物を着て外に出てくれたら、「わぁ、すてきだね」ってみんなが話すきっかけになると思いました。みんなが笑顔になる、着物にはそういうパワーがあると思って、そんなきっかけを提供出来たらいいなと。
ー 医療的ケアのある子たちの着物の着付けを経験して、今どのようなことを感じますか?
越田さん:あの子たちの着付けを通して、私たちも本当に勉強させてもらったなと思います。まだまだ旅行できないと思ってるかなと思いますけど、旅行できたし、着物も着れたし、大丈夫と思って明るく前を向いてくれるといいのかなと思います。でも実際、明るいご家族が多かったです!エネルギーがすごいし、周りのご家族の笑顔が素敵だなと感動しました。
本物を伝える。伝統工芸の窓口になりたい
ー 2018年には加賀友禅の着物レンタルも開始されました。金沢には着物のレンタルショップも増えてきましたが、「加賀友禅」のレンタルをされているところはまだないのでしょうか?
越田さん:『気軽に着れる加賀友禅』というのはまだないですね。着物の上下を分けた二部式で貸し出しているお店もありますが、初めて着物を着る人がそういうものを着ると、「着物ってそういうものだ」と思ってしまいます。そうではなくて、きちんと本物を伝えていこう、と話しています。
ー 着物レンタルのお店は続々と増えていますが、その中で心結ならではの取り組みや考え、心がけていることはありますか。
越田さん:まずは加賀友禅、そういう伝統工芸を体験できる場所でありたいですね。加賀友禅の他にも、能登上布という能登方面の麻織物の着物もあります。
そういう良い物を実際に着てもらって、体験してもらいたいですね。
私たちは着物をレンタルをしていますが、伝統工芸品でなくとも、着物を着る体験を通して、いつか購入につながるよう、伝統工芸や着物文化の窓口になったらいいなと思っています。初心者の方向けのカジュアルなものから、上級者のでも満足できるようなものまで、幅広く取り扱っています。
越田さん:撮影も私たちにとって大事な事業です。着物を着て、すぐ脱いでしまうと記憶に残らなくなってしまうので、3階でスタジオ写真を撮影できるようにしています。
先日も、観光のお客様で「還暦のお祝いに加賀友禅を着て撮影したい」と息子さんからお母様へプレゼントの形でいらっしゃった方もいました。写真があれば一緒に旅行に来れなかったご家族にも見せることができるので、写真は重要だなと感じています。
ー 着物レンタルだけではなく、着物文化や伝統工芸の未来も見据えた事業を展開されているのですね。本日はありがとうございました!
2015年3月の北陸新幹線開業以降、金沢は今もなおホテルの建設が続き、観光に沸いています。
数々の宿泊施設、飲食店、サービス業が開業し、価格競争やサービスの差別化をしながら生き残りをかけてしのぎを削っています。
こうした動きは、着物レンタルの業界においても同様です。
そんな環境下の中でも、金沢に来ることを選び、着物を体験したいと思い、数あるレンタル店の中から「心結」を選んでくれた方へ、できる範囲で最良の体験を丁寧に届けようとする「心結」のスタッフのみなさんと越田さんの姿勢には、顧客への誠実さと真心を感じました。
普段なかなか着物に袖を通すことが少ない人こそ、旅先での想い出づくりを兼ねて着物を体験してみてはいかがでしょうか。
施設概要・アクセス情報
施設名 | 着物レンタルshop 心結 |
住所 | 石川県金沢市本町1丁目3−39 |
WEBサイト | https://kokoyui.com/ |
電話 | 076-221-7799 |
料金 | 金沢観光着物コース 4,950円〜 |
主な設備 | エレベーター:なし バリアフリートイレ:なし |
(2019年11月取材/2024年10月内容を更新して掲載)